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このサイトは、私、まるみが行った温泉、泊まった宿、その温泉の湯気の向こうに見たものなど、時々に感じたことをつづった小さな旅の記憶と記録です。
そして温泉に行かないときの私が住んでいる街の日常も、載せていきたいと思っています。
長い間、私にとって温泉旅行など別世界の出来事でした。
温泉につかってのびのびと手足を伸ばす、などということは自分の生涯ではあり得ないことだと思っていたのです。
絶望というよりは希望の存在しない時間が長く長く続き、そしてあるときに完全介護状態だったパートナーが亡くなり、その時間が終わりました。
その後しばらくして私は、自分の体の療養も兼ねて大好きな温泉に行きだしました。
いま自由に温泉に行けて(もちろん金持ちではありませんから分相応に)、幸福感に包まれ、大地の恵みのお湯の中に手足を伸ばし、幸せな溜息をつくことができます。

そしてもう若くありませんから、いつ死んでも後悔しないようにせっせと大好きな温泉に行かなくちゃ!と思っているのです。
そんなふうに行きだした温泉のレポートをあるサイトにアップしていただいていたのですが、ある時からずっと疑問を感じていました。温泉と温泉宿に関してのレポートを送ることは、私のやりたいことではない… と。
ある宿に泊まりながらつくづく思ったのです。
じつは私はそれらのレポートの存在をたった1人だけに教えていました。
彼女は外国生活をしていて、私の温泉の記事を楽しんでくれるのではないかと思って。
彼女からは長い間なんの感想もありませんでした。

しかしある日突然の電話で、彼女が日本に帰ってきていたことを知りました。
「手術したのよ去年。で、帰ってきたの、ちょっと危ないから……」
あまりにも唐突だったので驚く私に
「あのさ、旅のHP作りなよ、私のために」
「女王様みたいなこと言わないでよ、まったくもう! メールで温泉の写真送ってあげるよ」
「写真だけじゃだめ。あなたの写真と文章。
あれ読むとあなたと一緒に旅をしている感じがするの。
私、たぶんもう旅行できないだろうけど、でももしかすると運が良ければ、一緒に温泉行けるかも、って思えたりするのよね。
私死ぬかもしれないんだからさ、あなたらしいHPを作って私に見せてよ。死んだら泣くか?」
「よく言うよ~そんなこと! 泣かない!
だいたい私が先に死ぬかもしれないでしょ。私が死んだら泣くか?」
「泣くもんかー!」
私たちの精一杯の明るい会話は、綱渡りのようでした。

「…家族に看取られ、永眠いたしました。」
という印刷の端に、お母さんの細いきれいな字で
「孫も帰国して間に合いました。我儘な娘と最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。」と書かれたハガキがきたとき……
私は泣きませんでした…… (うそです)

温泉宿を探している方には、私のサイトはあんまり参考にならないと思います。
私は旅に行く時は、行ける幸せを目いっぱい楽しみたいと思って出かけるので、どんな宿であろうがどんな食事であろうがおおむね受け入れてしまうのです。
時として食事がうまいだのまずいだのと書きますが、そんなのはそのときの私のたんなる気分です。
ですから宿選びをされながらご覧になる場合は、そう思って見てくださいね。
もしあなたがいま、かつての私のように温泉に行きたくても行けない、あるいは旅をしたくてもできない状況にあり、私が見た湯気の向こうの風景を、風を、湯気を……
ここに感じていただけて、それがほんの少しでもあなたにとっての慰めとなったなら、
私にとってこのサイトを立ち上げた意味があり、たいへん嬉しく思います。
そしていつかあなたご自身がのびのびと温泉につかって手足を伸ばす瞬間が、闘ってきたご自分にご褒美が貰える日がくることであろうことをお祈りいたします。
そのときは、どうぞ良い旅をなさってください。

このサイトを立ち上げるにあたって
私の亡きパートナーはこう言ったはずです。
「インターネットは、限りなくアナーキーな世界でなければならない」
そして私の敬愛する優れたグラフィックデザイナー、故 木村恒久氏のある日の言葉。
「イメージは、公共のものである」
この2つの言葉を、座右の銘としたいと思います。
ゆえに僭越ながら、このウェブサイトのコピーライトはすべてフリーです。
あなたの良識を信じて。
2009年5月末日 58歳の誕生月に。 まるみ
