ラブホの四季・秋めいた空篇
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- 秋めいた空篇
ラブホな職質
夕方ラブホ街を通って駅に向かっていたら、前を歩いている人がタバコに火をつけた。
小柄、茶色の髪をひっつめにして作った小さなシニヨンを頭の上にのせている。白い大きなショルダーをさげたパンツスタイルの女性。
この道はラブホ族以外にも通勤路に利用されている。病院の医者や看護師やヘルパーさん、奥の住宅街に住んでいる人たちももちろん通る。
勤めが終わってホッとして、帰り道思わずタバコに火をつけたのかな~ などと思った。
道が広がったところで、前からパトカーが来て止まり運転席から警官が降りてこっちに向かってくる。
え? 職質?職質?? 私はまだ職質を受けたことがないの~。
私の知り合いはブクロにくるたびに、80パーセントくらいの確率で職質受けるのにぃ。
私はちょっとドキドキして楽しみにしていたら…
警官が声をかけたのは私ではなくて、前を歩いている女性だったの。なーんだ…
しかしいつ見てもさすがプロのお仕事ぶり、初めに声をかけた警官が正面をふさぎ、後部座席から降りた2人が、気がつくと左右の背後に回っている。
何聞いてるのかな~と、立ち止まりたいんだけどさ、まあそれも失礼かな、と思ってしばらく歩いてから振り返ると…
ええーーっ!! 女性ではなくて髭のはえた、黒ぶち眼鏡の男性だった!!
ショルダーバッグから何か取り出して話している。
それを警官が6個の目でじっと見てる。
その日は池袋駅もすごい人数の警官がいて、その数、去年の洞爺湖サミットのときくらいの感じである。年に何回かこういうときがある。
駅改札横には必ず踏み台に載って1人、高いところから見ている。
道のT字路の突き当たりには必ず2人いる。通りから別の通りに向かう4隅のどこかに、必ず捜索する視線があった。街中が監視の視線に溢れていた。
何があったのかな~ まあ、ブクロはいつでも何かがあるんだけどね。
(ぼーっとしてる私は、その後どうやらオバマ来日で警戒してたらしいことに、やっと気づいた)
ラブホなリクルート
お仕事レディーの就職活動に関して、
どんなものを読んでいるんでしょうね~ 中を見たいでしょ~!
今日は忙しいから、ちょっとだけよ~
ふーん… 1万円のことを「大」っていうんだ…
「日給大10枚以上可能」えー!? 10万円!?
そして「しろうとでも安心」
「主役は貴女です」「簡単なパーツモデル」パーツ? 「アダルトグッズモニター」モニター?
「見るだけで稼げちゃう」見るだけ? うーん、いろいろ不明。
3冊とも似たようなものだが、編集者はなんとか特色を出そうと頑張っている。
しかしね、見ているとなにか片手落ちの感がある。
なんだろな~
そうか!
就職した先で男に「おいでおいで」と誘惑する類の雑誌も見ないと片手落ちだよね。
それはまた今度ね~
明日は温泉に行くので、今忙しいの。
ラブホなテッチャン
「ガタン ガタ~ン ガタン ガタ~ン シュー …
ごこくじぃ ごこくじでございます。シュー」
(? あ、地下鉄テッチャンね!)
地下鉄有楽町線は私もよく乗るのですぐ分かった。
ナナメがけの大きなショルダーバッグ、ペットボトル片手に
「シュー シュー ガッタ~ン シュー」と小声で地下鉄に乗った気分で雨のラブホ街をゆっくり歩いている。
「次は~江戸川橋 江戸川橋 お出口は右側です。カーブが多く、揺れますので、お立ちの方は吊り皮や手すりにおつかまりください。シュー」
(そうそう、あそこは川の下を通っているので深くてカーブが多いの)
「次は~飯田橋 飯田橋 お出口は右側です。地下鉄東西線・千代田線・JR線はお乗り換えです。いいだばし~いいだばし~ シュー」
そして、シューシュー言いながら、突然ホテル熊猫城に入ったのだった。
決然と。1人で。
(あん? びっくりした~!)
向こう側の癒し
金網の向こう側にずーっと引っ掛けてある縫いぐるみ。
雨の日も風の日も揺れてとどまっている。
これって線路工事のおじさんの癒し用?
最近、スーパーでお尻がはみ出すくらい短いショートパンツを穿いて大根物色しているおねーさんの網タイツのとっても綺麗な足とか、質屋のウインドウを食い入るように見つめている小さなおばあさんとか、ミニスカートのキュートなフィリピーナに囲まれて得意そうに歩いているフィリピーノが素足に履いているピカピカ光る石の付いたサンダルとか……を
撮りたい衝動に駆られてためらう……
ときどき、ダイアン・アーバスの
その冷徹でいながら、奥深くに流れるものは人間への愛情と言ってもいいだろうモノクロの写真を思い出し、そして自らこの世に別れを告げた彼女の
「私は、(被写体に)匍匐前進して近づいていく」という文章が頭をよぎってちょっと戦慄を覚える。
そう。たわむれ、じゃれるのはやめよう。分相応に。
怪しい石鹸
夕方になると、駐車場のどん詰まりのソープのネオンがピカピカする。
あら、桜が舞ってるじゃない? ってんで奥まで行って写真を撮っていたら、
ワイシャツに蝶ネクタイのおにーさんがすっ飛んできて
「何してるんですか?!」
(見りゃわかるだろが~)
「ネオンサインの写真撮ってます」
って答えたら、血相変えて
「ダメです!止めてください!撮影禁止です!止めてください!」
えー? なぜよ?「ネオンの写真撮っちゃだめなの?」
「撮影禁止です!撮影禁止!」 しっしっしっ!みたいな感じで追い払われた。
歩きながら後ろを振り返ると、じいいーーーっとこっちを見ていた。
なぜよ? ううむ。なんだか、あやすぃいわねぇぇえ
それからは、用もないのにわざわざ遠回りして
駐車場の奥をちょっとのぞいてみることにしている。
ブクロの洗濯屋
そろそろな~
夏物をクリーニングに出さないとな~
めんどくさ!
というのはさ、
春先に、冬物のコートやジャケット、ストールやその他もろもろ、
ラブホ街のはずれのクリーニング店に持っていったら
1点ずつ点検していたおねーさんが
黒いショートジャケットを指さして
「これ、ケ?」と言ったのだ。
(? 素材のこと?)
だから「え? はい。ウールです」と答えたの。
彼女は私の顔をじっと見て再び
「ケ?」
(ん? この人日本語分からない人なんだろうか… まあ、ブクロではそういうことがよくある)で、
「はい。羊の毛」
そしたら!!!
「これ、犬か猫の毛でしょ! 困るんですよこういうの! 今回は引き受けますけどね、次からはお断りしますよ!」って言われたの。
こわい~~~
だって洗濯屋だろがー そりゃ5~6本猫の毛付いてたけどさ~~
(もうちょっとあったかもしれないけど)
だから洗濯屋に持って行く前に、
コロコロで猫の毛取っていかないとさ~
あー めんどくさ!
ラブホな撮影
このあいだ夜中にコンビニに行って、
ラブホのただ中を通って帰る途中、
人通りの絶えたラブホ街で撮影しているのを目撃。
人数も5~6人、ライトも1本、車も1台、
アダルトビデオかなんかの安上がりな撮影みたい。
立ち止まってちょっと見ていた。
男と女がラブホ街の向こうから歩いてきて、
とあるラブホの入り口のところで男が女の腕を掴んで入ろうとする。
と、
女が叫んだ。
「きゃー! なにするの?! いやー!やめてー!!誰か、誰か、助けてくださーい!」
ええっ??
なんじゃーそりゃ!!
延々とラブホが連なる深夜の通りを歩いていて、連れ込まれそうになったから「助けてください」?
ありえねー!! 凡庸、通俗を通り越して、陳腐の極!
何たるシナリオ。安上がりとはいえプロの意識はないのか!
プロであるならば、ラブホの部屋に入る以前に性的欲望と好奇心をかきたてるシナリオを書きなさい!
私は踵を返してプリプリしながら部屋に帰った。
しかし冷静に考えてみると…
もしかするとAVの撮影じゃなくて、コメディの撮影だったのかもね。