(2011年10月6日 2人泊 早期予約サービスで@4,800円 )
北海道・帯広の旅は、ソフトクリームから始まる。
帯広空港の1階の到着ロビーから2階の出発ロビーに駆け上がって、
まちこに
「土産物屋の左! 私はトイレに行ってくる~!」と叫び、
2人ともソフトクリームゲットの後、少々恥ずかしいがこれを捧げ持ってバスに乗車。
「こんにちは! 北海道」
帯広空港のソフトクリームはサラサラ系でミルク感たっぷり。
まちこは「おしいいね~ 帰りにも食べようね」
(そう、あなたはまだ知らない。
北海道の帰りには、また違うおいしいソフトクリームを食べるのだ、ということを)
市内ホテル行きのバスは、北海道ホテルの前に止まってくれた。
雨上がりの湿った空気の中で、ゼラニュームの赤がやけに鮮やかだった。
藤棚にはたくさんの実が垂れ下がっていた。
豆の鞘状の実で、藤ってこんなに多くの実がなるものなんだと、初めて知った。
2人でしばし見上げる。
見上げているうちに、そういえば寺田寅彦の随筆に<藤の実>というのがあったことを、
私は突然思い出した。
「昭和7年12月13日の夕方……」という書き出しでそれは始まる。
ずいぶん以前に読んだものなのになぜそれを鮮明に覚えているかというと、
寺田寅彦の想念の軌跡を垣間見て、感動したからだろう。
初冬の夕方帰宅した彼が書斎の机に向かうと、窓ガラスにぴしりという音がする。
やがてそれは藤の実がはじけて窓に当たった音だと判明する。
家人によって、その日の午後は庭と台所脇の藤の木から、実がいっせいにはじけ飛んでいたと告げられる。
物理学者は素早く、庭の藤の木と窓ガラスまでの距離を頭に描き、はじけたエネルギーの計算をする。
その植物への感嘆と共に
研究室の窓から見える、つまりは東大の敷地内のイチョウの木が、
晩秋、風もないのに突然落葉していく姿を思い出し…
それから、同じ敷地にある椿の花が風もないのにいっせいに落ちていくことを思い出し…
それが群発地震と共通するものがあるのではないかと思いをはせ、
植物学と物理学の出逢いを夢見て…
アールデコの風情の北海道ホテルは、外壁から高みに飛び立とうとする鷹たちが出迎えてくれた。
「ようこそ、ようこそ 十勝平野へ! 」
温かみのある木のアーチをくぐると、そんな言葉が聞こえてくるようであった。
エントランスホールに入ると、ゆるい曲線の壁に沿っていざなわれた視線は、
正面に見える広々とした庭の緑に一瞬釘づけになる。
「ようこそ帯広へ! 北海道ホテルへ!」
幾何学的に連なる壁面の模様は、デコと同時にどこかアイヌの伝統的な文様をも連想させる。
建築家の情熱が、それは多分この地へ寄せる思いであろう、
この自然、この大地でこそ形となって結実したことが伝わってきて、
「格安で泊まれてモール泉」につられ、
ああ、そういえばこのホテルのことは何一つ調べてこなかったな…
帰ったら建築家を調べて、別の土地、違った空気の中での他の建築も見てみたいものだ。
フロントでチェックインしながら、そんなことを考えた。
そう、そして寺田寅彦…
それまでの科学が<偶然>で片づけてしまう部分に目を向け…
自分の子供が怪我をして医者に診てもらったときに、その医者の子供も同じ日に怪我をした話やら、
お手伝いさんが同じように<2度あることは3度ある>状態になったことやらを書き…
暦の<さんりんぼう>などにも、あながち切り捨てられないなにかがあるのかもしれない。
というように、ある意味非科学の領域にまで漂っていく想念に、感動した記憶がある。
物理学者は、研究室に入ったときに物理学者になるのではなく、
文学者は、万年筆を持ったときに文学者になるのでもなく、
油絵を描きながらあるときは猫に半紙を被せてその柄を写し取り、
球体の卵子の表面が如何に細胞分裂していくかを探り、
椿の花の落下の流体力学を計算をしながら
折々の自然を歌に詠む。
この世界で、自然とかかわる人間の皮膚の下には温かな血液が流れていて、
そしてその体の一部の脳が考えているのだけれど、外界を捉えているのは体全体でなのだ、
ということが如実に伝わってきて、その偏見や排除のない思想が、私の心を捉える。
どこかシュタイナーに通ずるような気もする。
十勝平野の片隅の、コージーなホテルで考えたこと。
幌加の<鹿の谷>に行くのに、1日1本のバスに乗るために帯広で1泊。
北海道ホテルはモール泉の温泉もあるし、おまけに早期予約で半値以下。
これならいいでしょ~ まちこも満足!
8階のコンパクトなツインルーム。
帯広駅から歩いて10分、シティーホテルなのかリゾートホテルなのか、どっちなんだろう?
どっちともいえるんだろう。
それが大きな魅力なのかもしれない。
中庭に面した部屋は、緑が間近に見えてすごく素敵そうであるが、
残念ながら貧乏人の私には泊まれそうもない。
温泉に入ったら、今夜は十勝野菜をたくさん使ったフレンチレストランへ。
朝食がないと騒ぐまちこは、ますやのパンを買っておけばいいし。
ホテルの周辺は木立が多く、あとで散歩してみたらたいへん気持ちよかった。
最近私は、遠い将来に北海道移住を夢見ているのだ…
外野はわーわー言うが。
「雪掻きが大変ですぐに帰ってくる」とか「寂しくて1人じゃいられない」とか。
残念でした!雪掻きは好きだしさ~ 1人でいるのは慣れてるのよ~
もっともヨボヨボになって体が動かなくなってしまったら、これは単なる妄想ね。
内装もたくさんの木が使われていて、エレベーターホールも温かな雰囲気だった。
私たちが泊まる部屋は値段相応でふつーであるが、ホテル全体に心地よさが漂う。
窓の下には帯広の街が広がる。
1階の浴場には、フロントを通らなければ行けない。
浴衣でOKなんですって!
「結婚式が行われている場合はご遠慮ください」ってあったけど。
中庭で結婚式のウエディングドレス姿の写真を撮ってましたね~
構造上、カフェ、レストランと風呂場が同じところにあるのです。
脱衣所にはバスタオル、フェイスタオルが置いてあるので手ぶらで行けます。
嫌いなブクブクジャグジーが場所を取っている。
けれどしっかりモール泉。
紅茶色。
ヌルヌル感はほとんどしない。
そんなにアルカリじゃないんだろう。
やっぱり鶴居村あたりのお湯とは違うが、ホテルの温泉ですもん、贅沢言ってはいけません。
明日は<鹿の谷>だしね~
露天も付いている。
壁に囲まれていて、まあ、外の空気を感じられます、っていうことかな。
空気はひんやりしてきていて、気持ちよい。
上はこんな感じ。
そうです、贅沢言っちゃあいけません。
北海道ホテルを出て、私たちは雨上がりで冷えてきた帯広の街をゆっくり歩いて
レストラン オランジュに向かった。
帯広駅。
六花亭。
レストラン オランジュを出て、まちこは言った。
「ああ… 私、もう、ここに来られただけでいいわ」
(なーに言ってんの~ 旅はこれから!)
けれど思わずそんな言葉が出てしまうのは、私にもたいへんよく分かった。
そしてこれでおしまい、ではなくて、ここからが本番なのであって、
寝る前もなんだかとてもウキウキと嬉しかった。
朝は青空がのぞき、やけに暖かだった。
せっかく北海道に来たのにー!
雲がどんどん流れていく。
まちこは昨夜買ってきたますやのパンを食べコーヒーを飲む。
私はお茶だけにして六花亭で何か食べよっと。
まちこ、暖かいからソフトクリームのせ白玉ぜんざい。
「おいし~い」
私は牡蠣とホウレン草のピッツア。
去年もミセス温泉と来て、そういえば同じものを食べたわね~
ぷっくりした牡蠣も、ショリショリしたホウレン草もうまーい。
三陸の牡蠣、どうなったかな……
早く復興できますように。
そして<鹿の谷>では自炊なので、
食糧調達。
まず、ますやに。
街のパン屋さん。
おかずパンやクリームパン、フワフワの食パン。
懐かしい味の、柔らかな、けれど粗雑な空気パンじゃなくて、
密でキメの細かい生地の、もっちりとしたおいしいパンである。
なにより、お安い!
その後私たちは駅のそばの長崎屋に行って食糧を買おうとしたら、
2階のフロアをさまよえど食品売り場が見当たらず、店員に聞いたら
「撤退しました。いま食料品売り場はありません。11月から違う店が入ります」
ギャ~ッ!
タクシーでイオンに急行。
調達後、タクシーで駅に。やれやれ。
14時半、旭川行きのバスは定時に出発~
そう、旅はここからが本番!
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