(2010年11月14日 2人泊 @11,000円)
山梨の増富温泉 不老閣に行った直後に体調不良になり、その後入院などして
最近やっと元気になってきたまちこを、1年ぶりに温泉に連れていくのである。
以前北海道、旭岳温泉に連れて行ったら、
温泉だけでなくそのほか連れて行った所やらお食事やらがやたら気にいって、
「また北海道に行きたい!」
今回の旅行の情報を教えようか?って聞いたら
「ううん、ハズレは絶対ないってわかってるから、いい」 ですって…
つまり北海道に行くっていう以外、彼女はパーフェクトに何も知らない状態で、
当日新宿駅の羽田行きリムジンバス停で待ち合わせ。
いやはやここまで信頼してくれるってのは… ありがたいような、しかし不精の極みのような…
まっ いいけどさっ
釧路空港はいささか使い過ぎの感のある私は、今回は女満別空港から南下することにしました。
女満別空港からはまずバスで網走駅に。
この途中にある<りすの森>っていうジェラートショップに行ってみたくて、私は事前にこの店に電話した。
バスの道筋の途中にあるようなので、どこの停留所で降りるか、バス停からどのくらいか、などを聞いたのね。
電話に出た青年は
「ちょっとお待ちください」
しばし待ったのち、バス停名やらバス停の目の前に店があることなどを細かく教えてくれた。
あまり寒かったらどうしようかと思ったが、本日気温はかなり高めで、これならジェラートぜーんぜん問題なし。
まちこに聞いたら 「行きたい! 北海道だもん」
すごく評判のいいソフトクリームを食べてから、ジェラートに、というつもりで…
うわ! 濃厚!
そしてすごくおなかに… たまる…
2人とも、ソフトクリームを食べ終わったときには
「これはもう、ここで無理かもね」
「ああ~ ジェラート屋さんに来て、これからってときに」
半分ならいけるか、いや無理か。
あんなにおいしそうなのがあるのに~ぃ!
まちこも首を振る。あきらめるっきゃない(泣)
仕方がない、また来られることを祈りつつ、いったい次の網走行きのバスはいつ来るんでしょね~
と窓を見やっていたら
年配の女性が入ってきて、あ、お客さんと違う風情。
「これからどちらに?」と聞かれて
「網走駅に」
「次のバスがいつ来るか分からないんですよね、ちょっと待ってくださいね」
携帯を取り出して電話
「あ、お父さん、車回してくれる?」
?!
やがて表に1台の車が。
「どうぞ乗っていってください」と笑顔で送られお父さんの車に。
あ~ 北海道的ご親切、
最初はこういうとき「えーっとえーっと、あとでお礼しなくちゃ」とかドギマギしたが、
最近はもろ手をあげて大らかに享受させていただくことにしている。
網走川に沿って走る車の中で気が付いた。
このお父さんがどうやら<りすの森>の創業者らしい。
私が事前に電話をして色々聞いたので、東京から飛行機でやってきてわざわざ途中下車して店に来るということに対処してくれたらしい。
お父さん、網走川のそばに車を停め、
「ほら、あそこで鮭を獲ってるよ、見てきなさい」と言ってくれたのね。
え?鮭を?獲ってる? やたら道路のそばよ、それも街に近い。
あっ!! クレーンから吊るされた籠の中に鮭がたくさんいた。岸で待機してる人の手にもまだ動いている大きな鮭が。
男たちは手にした棒で鮭の頭をパカッと殴って次々に鮭を籠の中に放り込んでいる。
間近で見るとその大きさや重量感が伝わってくる。
「獲る」という行為が、こんなすぐそばで、リアリティーがありながら奇妙な距離感をもって展開されていた。
あれは… 何で見たんだっけ…
私は頭の中に浮かんできた図を必死に思い出そうとしていた。
それはアイヌの人たちがかつて用いていたもので
確か柳の木の枝を削って作った、獲った鮭の頭を殴るためにのみ使われる棒なのだ。
その図には
枝を削って握る部分を作り、その棒の中央部分には木を削ってカールさせたものがそのまま付けられ、そして先端のほうは木の枝のままで、
そこに
「ここで叩く」もしくは「ここで殴る」というようなキャプションがあったように思う。
あれはいったい何の本にあった図だったんだろうか。
<それは柳の木でなければならない。
鮭の頭を殴るという動作には、その命を神の国に送るための清廉さが伴わなければなければならない。
柳の木を選び、削り、そして 「獲る」までの一連の行為に感謝と節度が込められていなければ、鮭の命は、人間の命の中に流れていかないから。>
そんなことを感じさせる木の棒の図であった。
カヌーが置いてあった。
ということは! ここもカヌーができるってことね。覚えておこう。
お父さんはその後も車から見える網走刑務所の説明などしてくださり、駅周辺はなにもないが、これよりずっと先のほうに飲み屋とか飲食店とかあるんだということを教えてくださったのね。
でも私たちはこれから釧網線に乗って中斜里駅に向かうので、網走駅で降ろしてもらいました。
ありがとうございます! 感謝感謝!
あ、この電車じゃないのよ、これは反対方向のなの。階段を上がって向こうのホーム。
1両でした。
今回網走から南下するコース、私は初めてだけど、まちこにも見せてあげたいと思ったんです。
初冬のオホーツク海を。
が、まちこは電車が動き出してすぐに、寝てましたね~
ずーっとね。気持ちよさそうに。
無人駅の中斜里。
駅前にホテルフリーズのご主人が迎えに来てくれていました。
この宿を経営するご夫婦は北海道の方ではなく、宿を造るにあたって全道を回り、自分たちの思い描く風景の土地を探されたそうです。
この土地を見たときに、ご自分たちの求める条件が満たされた風景だと直感されたらしい。
フロントがあるコテージで説明を受けて鍵を渡してもらう。
6棟あるコテージのなかで、私たちのコテージは真ん中あたり。
小雨がパラパラ。雪になあれ~
何日か前に降った雪は、日影に残っていた。
気温が高い時季は、夕食はこのテラスでバーベキューだそうです。
2ベッド。仕切りのドアなどはなく、段差がたくさんあるワンルーム。
ベッドの下のほうには、大きな窓に向かってオットマン付きの椅子が。
外の風景を十分に楽しめる窓の大きさ。しかし奥の椅子に行き来するためのスペースはなく、
たとえばここでお茶を飲もうとしても置く場所がない。
自炊はできないが、電子レンジ、電気ポット、冷蔵庫など完備。
正面のガラス戸を開けると小さな露天風呂がある。
冷蔵庫の前あたりにバスルームのドアがあり、中はゆったりしたバスタブ、シャンプー・リンス・ボディソープあり。
トイレは、オープン。
目の前に窓があり、露天風呂の向こうに林が広がっているのを見ることができる。
当然そばの洗面台を使う人には気配も分かるし、それ以上いろいろと…
こういうことに抵抗がある人や、抵抗を感じる関係の人と泊まることはできないだろう。
たいへん北海道にふさわしい造りだが、北海道の人の発想からは出てこないと思える。
私とまちこは、お互い相手が寝てるとき、とかまあタイミングをはかりつつ。
小さいけれど自然の中のお風呂、という感じのステンレスのお風呂。
温泉ではない。フロントで1回分のバスオイルをくれる。
部屋の中にガス湯沸かし器があって、風呂にお湯を入れるときや洗面でお湯を使う時にはガアーッと大きな音がする。
林の新緑が美しいだろう。夏はきっと繁盛するはず。でも本日は我々のみ。
来るときに車の中からカラマツの林が見えた。半分葉が落ちていたが、残った葉が黄金色に輝いていた。
ご主人が「風が吹くと、カラマツの葉がシャワーのように降ってきます」
道路の端には、カラマツの葉がうず高く積もっていた。
海鮮鍋のセットとガスコンロは、6時に部屋に届けてくれる。
白い大きな貝は、鍋に入れる前にちょっとにおいがして、これはパスね。
それ以外はおおむねおいしく、とくにまちこは
「ニラがおいしい!」と、かっさらって食べてました。
タコとかイカはあっという間に縮むので急いで食べる。
豚肉もたくさんあって、ゴマだれ、ポン酢だれで味の変化がつき、最後までいただけます。
最後は雑炊ね。満腹です。
玄関の灯りを消すのが合図で、食事セットを下げに来てくれる。
そしてデザートのアイスクリームを持ってきてくれました。
このあと外に出てみると、よく晴れて、星が美しく輝き、2人でタバコをすいながらしばし見上げてました。
そうよ、もちろん部屋は禁煙。
ベッドの背にもたれてまちこはテレビを見る。
私はバスルームでシャンプーしてから体を洗い、その後ぬるくなってしまった露天にお湯を足しながら入った。
葉が落ちてしまった木々の細かい枝の間から星が瞬き、体を動かすとまた違う星々のきらめきが見え、
見飽きなかった。
上がると、まちこはなんとさっきと同じ格好で寝入っていて
私は「ちゃんと寝なさい」と声をかけて寝かせてから1人で外に出て、敷地の入り口まで歩いていき、真っ暗な道路に立って星を眺めた。
朝は、すごく早く目が覚めた。
まちこは
「私、なんか早く寝たみたい」
って言うので、
「間違いなく、10時ごろには寝てたね」
って言ったら
「なんだろ、やたら眠れるのよ。うちじゃこんなに寝ないわよ~
シャワー浴びてくる」
まちこがシャワーを浴びると、部屋の隅のガス湯沸かし器がガアーッと音を立て続ける。
シャワーのお湯の音がジャーッと響き続ける。
昨夜私もやったことだ。
遠く窓の外のカラマツを見、響き続けるその音を聞きながら、私は愕然とした。
人間2人、昨日からこの部屋で、どれほど大量のガスと水を消費して、大量のお湯と共にシャンプーやらリンスやら石鹸やらを流したのであろうか。
まちこのシャワーは延々と続く。そう、昨日私もそうやった。
もちろんこの排水はどこかで浄化されて海に流されるはずだ、きっと…
この土地のどこかを、管が通り、それを流れていくに違いない。
法律に則って。
北海道というところは、池袋の自分の部屋ではまるで考えなかったようなことを、
突然考えさせられる。
ときどき私は…
地球の自然がいままで持ちこたえているということに、驚異を感じるときがある。
そして終わりもまた来る、という感慨にひたる。
細い流れの、そのせせらぎの音が、耳にとても心地よい。
けれどその流れが突然に姿を変えることも、その恐怖も、ほんの少し知っている。
朝食も、運んでくれる。
新鮮な野菜が口の中に入ると、空腹感が自覚できる。
さめないように保温容器に入れたトマト味のスープ。レストランの味ではないが、家庭的でほっこり。
ゴロンと大きなジャガイモ。おなかいっぱいになる。
使い勝手はたいへん悪いコテージだが、たくさん配された窓からうかがえる自然、
外に出ればさえざえとした大地の色とにおいと光を肌で感じられて
まちこも嬉しそうであった。
彼女にとって、前回の旭岳とはまた一味違う朝を迎えたことだろう。
旅はまだまだ続く。
まちこは地図さえ見ない。
ご主人に中斜里駅まで送ってもらい、この駅から釧網線に乗るのは私たちだけ。
そして彼女は電車に揺られるとまたしても心地よく眠りだし…
もうじき川湯駅、というあたりで
「あら? 私ってけっこう寝ちゃった?」 は~い、寝ちゃったよ~!
そんな感じで摩周駅に降り立ったのであった。
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