汗ばむブクロ
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ヘリコプターがバタバタと、何度もブクロの空を旋回する。
2度 3度。 そしてまた。
「あ… なにか事件だな」
夕方のニュースで
<女子大生、ラブホで殺される>みたいなのを流した。
出会い系喫茶で出会って、その後ホテルに、みたいなことを言っている。
出会い系喫茶ってなに?と思ったら、かつて取材した実態、という映像になり
隠しカメラでとらえたらしい店内には男が何人も部屋をウロウロしていて、ガラスの向こうの女の子の品定めをしていた。
「ガラスはマジックミラーになっていて、中の女の子からは男たちの姿は見えないようになっています」
その後男が気に入った女の子を指名して店に金を払って外に<お茶を飲みに行く>らしく、
<お茶>のあとはまた金を払って別の所に行くらしい。
殺人を犯した男はその後自首して
「ホテルの部屋で金のことでトラブルになり、殺した」と自供したとのことだった。
まだ二十代の若い男と、出会い系喫茶で働いていた女子大生は、
ブクロのラブホの一室で、それぞれの運命がクロスした。
一人の生はここで終わり、もう一人はこれから殺人者としての人生を歩む。
もし、その青年が彼女を指名しなかったら…
あるいはもし、その日彼女が店を休んでいたら…
そんなことは起きなかったかもしれない。
ひしめき合ったブクロのラブホ街では、今日も様々な人生がうごめく。
熱帯夜
「オレ、ネギきらいなんだよお」
「えーっ! ラーメン食べるときどうするの?!」
という会話でラブホに入っていった。
「斎藤さんが遅刻したのよ」
「あいつ遅番になったんだっけ」
という会話で入っていった。
無言で入っていった。
パキスタンで洪水が起き、中国で洪水が起き、日本では百歳以上の不明者が相次ぎ、
そして熱帯夜のブクロのラブホは盛況である。
「これでもか!」
「闇の中に、煌々と浮かぶ明るいラブホテル群」 って…
なんかヘンじゃない?
まあ以前からこの辺はラブホらしからぬゲーセンみたいなライトのラブホ街なんだけどさ。
この間から突然自動車の強力ヘッドライトみたいな大型のライトが駐車場脇のラブホの壁の上と、その隣のラブホのエントランスの屋根に取り付けられたの。
それも「これでもか~~~!」ってくらいの光量のやつよ。
いつからこうなったかを思い出すと、私がコソ泥に遭ったあたりの時期と重なるのね。ラブホでも被害が出たんじゃない?
まあ気持ちは分かる、被害者として。
しかし私がうちのマンションから出ようとすると、その拷問沙汰の眩しさにクラクラッとなるのよ。
ちょっとちょっと、人と環境に優しくないよー!
通行人だって眩しくて下向いて歩いてるんだもん、ホテルに注意を喚起したほうがいいと思います!
「おたくのライト、歩いてると眩しすぎるから少々配慮したら?」って。言うわけないわね。入っちゃえば忘れるだろう。
大家にまた聞いてみるかね~ その後のラブホ事情。
ガリガリくん
お天気おねえさんが「東京は気温33℃です」と言うと、
ラブホ街は体感36℃である。
午後2時の、ホテルの間に僅かに見える上空は、抜けるような青空。
「あ、ここのほうが安いよ、ここにする?」と彼女に促されて、
コンビニで買ってきた袋、中にビールやらペットボトルやらスナックが入ったでかい袋提げた男が
「プレステあるかな?」
「わかんない!もう暑いからさ~ 早く入ろ! ここでいいよ」
「チクショー… なんで<ガリガリくん>ないんだ?!」
(<ガリガリくん>? あ、アイスキャンデー?)
彼女は男の腕を掴んでホテルに入る。
「みんなが買うからだよ!」と、彼女が言っている。
「あれ食いてーーー」と言いながら奥に連れ込まれていった。
ラブホ周辺のコンビニでは、この夏みんなが<ガリガリくん>買うらしい。
お泊まりサービス
ホテルクイーンのお泊まりサービスと…
ちょっと離れたところにあるホテルキングのお泊まりサービスは…
同じなのです!!
(四万十川のふりかけ貰ってどうする… ちくわにかけるのか?…)
朝からジットリ
日曜に仕事だったのよ…
いや~ 週末頭痛でこめかみズキズキして、
あ~ ちょっと遅れちゃった!
ブクロ駅に向かう細いラブホ街は、10時のチェックアウトに合わせてすごい勢いでハケて出てくるのね、手をつなぎながらさっ!
そういう大群がノロノロ歩いてるから、急いで進もうにも進めなくってさ…
あー とっとと歩けよー!
こちとら仕事だぜー!(頭イタッ…)
イラッとするとズキッと頭痛い。
なかなか前に進まん!
あっ しかもまた1組出てきて私の前に…
手をつないでいる前の2人連れは、ミニスカート、割とすらっとした足で、バッグに縫いぐるみをたくさん下げてる若い女の子。そして男はスーツ着てる。
男が彼女に話しかけた。
「どっかでちょっとおやちゅみちていきまちゅか?」
はえーーー?!
「うん、いいよ。どこに行く?」女の子はふつーであった…
「ぼくちゃんこおひいとかのみたいでちゅう」
あーーー 頭から湯気出そう… 速く歩けーーー!
「ぼくちゃんこおひいちゅっちゅっってのみたいでちゅ」
これから仕事の私は、無理やりその脇をすり抜けて駅に走ったのであった。