(2009年11月1日 日帰り入浴 @400円)
濁川温泉は、周囲を山に囲まれた平坦な土地に、雑貨屋さんが1軒、そして数軒の施設がある小さな集落である。
地熱を利用した発電所から、白い煙が上がっていた。
高温の温泉を利用して、温泉熱によるビニール栽培などが行われているらしい。
函館本線・森駅からバスがあるようだけど、
過疎地のバス、たぶん本数は少ないだろう。
かねてからここの熱いお湯と湯治場の雰囲気を味わってみたいと思ってはいたのだが、
交通の便がよくなくて、私が気軽に行ける場所ではなかったのだ。
だから車で連れてきてもらえて、
とっても嬉しかったのである。
創業は明治33年、道南・老舗の湯治宿である。
以前Yさんが泊まった時にはもうすでに、明治期の建物には泊めることはせず、
昭和になって建てられた新館での宿泊だったそうである。
入り口は新館と旧館の2カ所にあり、
日帰り入浴客は旧館の入り口から入るようになっていた。
ちょっと元気のないご主人、奥の椅子に座ったままの女将さん。
だいじょうぶですか~ と声をかけたくなる……
新館の2階にある女湯は新しく造られたもので、ありふれた長方形の湯船、男湯になっているほうの浴室がもとから造られていたものである。
先客が夫婦で入っていた。
そっちが本命なのである。だから先客が出てしまって誰もいなくなってからそちらに入る。
廊下の床はきしんで一歩進むごとにユラユラとたわみ、
そして今は使われなくなったたくさんの部屋が、寂しく並んでいた。
お掃除はきちんとされていたが、宿の夫婦2人で最低限のお掃除がやっと、という状態なのだろう……
歴史のある建物である。残念に思う。
お風呂場には1階から降りていく。
この階段もそうとう修理が必要な状況。
なんともそっけない脱衣所。
しかしこのそっけなさが、
ここがいいお湯だけを目指す湯治宿の証でもある。
ガラス戸を開けると、期待たがわず素晴らしい風呂場が目の前に出現した。
3カ所の浴槽のうち、奥の右の浴槽はぬるめのお湯が溢れていたが、
あとの2カ所は44~45℃と草津並みに熱く、とりあえずぬるめの浴槽に。
塩化物泉系統の、熱く、濃いお湯である。
山の家の単純泉とまったく違う泉質で、違うお湯を味わえることもまた、とても心楽しく感じる。
冷えていた体がちょうどいいお湯の温度でほぐれていき、その心地よさに身をゆだねていると…
あちこち見渡すゆとりもできてくる。
そして見上げればそうとう傷んだ湯気抜きに視線がいき、落ちかけた天井の板に目がとまる。
ええっ!! 強風が吹いたら、あれどうなってしまうのでしょう……
どんどん積もっていく堆積物は、ご主人が削って手入れされているらしい。
風呂場には、地道なその痕跡がたくさんある。
お湯は溢れ溢れて、こんないいお湯と風呂場なのだから、宿を続けていってほしいと願う。
北海道の温泉には車で若いカップルがたくさん来るではないか。
大工さんの見習いとかしてる若くてイキのいい温泉好きのおにいちゃんとかいないの?
この宿の天井を見上げて、
「おじさん、ちょっと危ないからさ、補強してやるよ、あの天井」とか言っちゃったりする子っていないの?
こういういい温泉と宿を何とかしたい!って思う、エネルギーがあり余っている若者はいないの?
最近は軽薄な感じじゃない、安くていい新建材とか出てるみたいだし、
あんまりお金もかけずに、2~3時間働けば壊れかけてる危ない状態から脱する手立てってきっとあると思うんだけど。
…… などと考えつつ。
体が充分にお湯となじみ、皮膚が開いたところで熱い湯船に入る。
きゅうううっ と、一気に皮膚が収斂し、 くくっ と我慢していると……
再び、徐々に体がほぐれていき ああ……
吐息とともに快感。
この熱いお湯こそがこの宿の真髄。
そして極上の解放感が体を巡った瞬間に、潔く風呂から上がる。これが極熱のお湯の入り方。
Yさんに
「すごくいいお湯だった~ 連れてきてくれてありがと~!!」と言ったら、
嬉しそうに
「ああ、そりゃよかった」と笑っていた。
いつか私、この宿に泊まるかもしれないわね。
きゅうううっ という快感を再び味わいにね。
そしておばさんはね~
そのとき階段の補強をボランティアで申し出ちゃうかもよ!
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