(2011年7月2日 1人泊 @9,500円)
蟹場温泉が土曜は満室で、2泊できなかった。
予定変更で孫六温泉に電話して
「土曜日に1人で泊まれますか?」
秋田なまりのおじいさんの声で「ちっとまっでください…… 泊まれます」
「では7月2日の土曜、お願いします」
「うづぃは…」
「は?」
「うづぃはやまんながの温泉でほでるではねです」
「はいぃ??」
思わず吹き出しそうになって
「あ、分かってますよ~」
私の笑ってる気配に、なんだか安心したような声で
「あ”ー きたごとあンの?」
「いいえ、初めてですけど、どんなお宿か知っていますから」
「あ、ンならば…」
バス停からの道順など教えてくれた。
しかし、孫六温泉をホテルと間違える人っているんでしょかね~
けっこう驚いた…
が、歩きながら考えた。
そう、いるかもしれぬ。
挙句の果てに「シャワーないんですかあ?」とか「シャンプーとリンスはどこにあるの?」
「ドライヤーは?」
「バスタオルは?」
とか言っているのかもしれない。
大湯温泉脇の小道を通り、川伝いに歩く。
平坦な道だったが、ゆるい登りになっているのかも。
なんだか異常に暑い。堰だらけの川からの風もなく、昨日の涼しさが嘘のよう。
15分ほどで、孫六温泉到着。
湯治棟の建物が3棟連なっている。
11時過ぎ。
本館の受け付けにいたおじさんに名前を告げて
「今日予約してあります。早く着いてしまったので…」
「あ?!」
おじさんはチラッと時計を見やり、それでも上げてくれそうな気配だったが、
いくらなんでも早すぎるのは百も承知だから
「上の黒湯温泉に日帰り入浴してきます。荷物を預かってください」
「橋を渡って登っていくと藪の中に細い道があるから、それを5分ほど行くと黒湯です」
このような人工的な川の風景を、私は憎悪に近いまなざしで見つめてしまう。
ホントにお言葉通りの藪の中の道だった!
あまりに正統的な藪なので虫がいるのが心配だったが、気になるような虫はいなかった。
道は細かったが手入れされていて歩きやすい。
風が通らないのでやたら暑い!
5分ほど上ると、茅葺の黒湯温泉の建物が見えてくる。
受付け棟で500円払って内湯に向かう。
その辺じゅう観光地の趣き。人がたくさん。
混浴の露天もあるが、この日差し、そして気を遣いながらの混浴露天に入る気はせず、
乳頭温泉はどこもお湯の温度が高いので長湯もできないし、
チャッと内湯に入ればそれで良し。
硫黄のかおりふんぷんと漂い、プクプクと泡がたっているのを横目に内湯棟に。
入ってすぐに脱衣所。その向こうすぐに内湯。
温度は40~41℃くらいか、私には熱い。但し肌あたりは中性に近い感じで優しいお湯だった。
細かいグレーの湯の花が わ~っと巻き上げる。
この感じだと、10分で切り上げかな。
しかし1人で窓の外の緑を眺めながら入っていると、とても心地良かった。
ドアを開けてすぐ前の露天に行ってみる。
カンカン照り… めげる。 足だけ浸けてみると、ちょ~~~熱い~~~!
内湯に退散する。
その後2~3人が入ってきてみんな静かにつかっていると、ドヤドヤと3人のケバめのおばさまたちが乱入。
「あ~ いいわね~」「あんた、こっち風通るわよ~こっち」
3人でどぶんどぶん内湯に入ってきた。
「露天に行ってくるわ」「日焼けするよ~」
「大丈夫、帽子被っていくから!」「露天熱い~!」
彼女たちが出た後の内湯は…
湯面が15cmくらい下がっていたのであった……
もう先ほどまでの静けさはかえってきそうもないので、私は切り上げてあがった。
舗装された県道を歩いてみる。
8月のお盆のころのような空の青さと白い雲。
気温32~33℃くらいか。暑いわ~
SUUNTOの高度計で見ると、850mほどの標高、
さすがにブナの木陰に入ると涼やかで、自分が今どこにいるのかを知ることができる。
姫竹や山菜を取るためのマークなのだろうか、林の中の下草や竹に、目印のピンクのビニールテープが所々付けられていて、それを辿りながらなんとなく静かなブナ林を歩く。
県道はたまに車や人が通るが、そんな気配もほとんどしなくなり、湿った落ち葉のふかふかした感触を感じて嬉しくなったり、
時折聞こえる鳥のさえずりや蝉の声に、立ち止まって耳を傾ける。
さっきまでの黒湯温泉のごった返しぶりが、別世界のようであった。
静寂感はあるが寂しい感じはせず、むしろ、ものみな短い夏の時間を精一杯生きている活気が漲り、その中で同じ時間を生きていることになんともいえない喜びを感じたのだった。
<秘湯風>を堅持する、たいへん商売上手な温泉郷である。
メディアにも度々取り上げられ、秘湯ムード満点。
手付かず風のブナの森、昔ながらの藁葺屋根と宿に至る未舗装の砂利道。
道路には自販機などなく、土産物屋もない。もっとも土産になるものもないが。
そしてこの温泉郷の宿に宿泊すると買える1,500円の湯巡りパスは、
湯巡り号というバスですべての温泉の付近にあるバス停で乗り降り自由、日帰り入浴ができる。ちなみに湯巡りライト、というパスもあって500円であった。
帰って友達に「あそこ、すごい秘湯よ~ あたしさあそこの温泉全部入ったの!」と言えるわけね。
高温泉に何回入っても平気な人は。
各温泉は一見車で行けそうもないようなところもあるが、どこもしっかり駐車場完備である。
バス停、もしくは駐車場からは、多少ヨロヨロするがハイヒールでも行ける。
でもこの静かなブナの森の中にたたずんでいると、そんなことをすべて忘れさせてくれるのだった。
ほらね、あそこが孫六温泉の駐車場。
この道の端には<タクシーバックスペース>と書かれた立て札が立っているの。
こうやって見ると、
<歩いてしか行けない秘湯>風でしょ?
さ~てね…
12時半…
宿の人はいまお昼ごはんかな。
もうちょっと後のほうがいいかな~ しかし暑いな~
タバコを1本すって、12時45分になったから、声をかけてみた。
若い女性が奥から出てきて、お嫁さんだろうか、
「お荷物、部屋に運んでおきました。どうぞ」と言ってくれた。
2階の南西の端、細長い4畳の部屋。
2方に窓があって風が通る。
どうやら鍵がかかるのは私の部屋だけみたいで、気を遣ってくれた模様。
しかし南西角部屋、暑いの~
1階端にあるトイレはすごく涼しくて、ずーっとここに居たい、と思ってしまったのでした。
トイレは和式と洋式とある。
洗面台の水道は「止めないでください」とあって出っぱなし。
水がとても冷たくて気持ちいい。
日に照らされながらまずは
「からこの湯」に行ってみる。
ここは男女別の内湯。
しばらく誰も入っていないのだろう、脱衣所はむあっと暑く、
風呂場も風通しがなくて
あ~つ~い~
無色透明の、綺麗なお湯である。
なかなかいい感じのお風呂だが、お湯に足の先をちょっと浸けてみると… そうとう熱い。
ここはいつでも入れるから、人のいない今のうちに混浴風呂に入ろう。
脱衣所は男女別の「石の湯」
女性の脱衣所脇に女性用露天風呂がある。
とにかくメインの「石の湯」に入っちゃおう!
いい感じの木の湯小屋。
階段を降りて… 「からこの湯」と同じ源泉なんだろうか。ここも透明なお湯だった。
なんかお湯の中にヘンな袋があるんですけど~
なんでしょね~?
こんないい風呂なのにぃ!
なーぜなーぜ 漬物石2個?? & ブロック!!
そして隅のヘンな袋はなんざんしょ!!!
木張りの床が浮き上がるのを防ぐためなんだろうけど……
外には手ごろな岩がゴロゴロしてるんでっすよ!
よりにもよって漬物石。 これって信じられない発想であるわね。
まあそれはともかく、そっとお湯に入ると、たぶん45~46℃のかなり熱くきゅーっと肌にしみ入るお湯で、
じーっとしていると徐々に肌になじみ、
やがて熱さに緊張している体がほぐれて心地よさに変わり、ゆったりとあたりを見回すゆとりが出てくる。
換気扇のない高い天井。
木の湯小屋特有の落ち着く眺め。
気持ちいい。
しかし5分も入っていられず、上がって木の戸を開けて露天に。
露天のお湯はかなり浅く、おまけに日差しが照りつけている。
このお風呂と、川に近いほうにもう1カ所小さな露天がある。
女湯の露天に入ることにしました。
こちらももちろんカンカン照り。
岩が焼けていて裸足の足の裏が火傷しそう。
見た目もあきらかに泉質の違うお湯である。
水も細く投入されているがごくわずかで、日のあるうちはちょー熱いお湯に入らねばならないみたい。
ここからは川が目の前に見える。
白い湯の花がたくさん舞う、熱くて暑い風呂だった。
<蟹場>の謂れは想像できるが<孫六>はどういう謂れかとずっと思っていた。
湯上がり、受け付けにさっきのお嫁さんが座っていたので
「なぜ<孫六>って名前なんですか?」と聞くと
「うーん、なぜなんでしょうね? ここにも書いてないし…」
宿のリーフレットを手渡してくれた。
この宿の創業者が、ここのお湯の良さのためか長生きした、というようなことが書かれていて
そのおじいさんに孫が6人いたのかしらん…
夕方にかけて続々と登山のいでたちのグループが宿に入ってきた。
さっきまで下駄箱には私の靴しかなかったのだが、夕食前にははみ出して床にまで並べられていた。
本館の食堂以外にも食事が用意されていたから、本日盛況である。
5時半はまだまだ日が落ちずに、夕ご飯というより昼食に近い雰囲気。
3匹目の岩魚さん、こんにちは!
きのこ類、ミズ、ワラビ、など、素朴。
天ぷらは冷めていてゴワゴワ系であるが、あまり気にならない。
お燗で日本酒。
いぶりがっこを食べて、すごくおいしいのでびっくりした!
昨日の蟹場温泉でも出たのだが、味が全然違う。
大根のおいしさも残っていて塩味もほどよく、歯ごたえもいい。
お給仕してくれたおじさんは朝荷物を預かってくれた人なんだけど、
その人に「このいぶりがっこ、すごくおいしい」と言ったら
おじさんは嬉しそうに「そうでしょ! うちで作ったやつだもの。1年分作って真空パックにして保存しておくんです。あ、持って帰ってもおいしくないよ、味が変わっちゃうからね。ここで食べるからおいしいの」
と、私の思いを見透かしたかのように得意げに言うのであった。
発酵食品だから、確かに持って帰っても味が落ちるだろう。
土鍋で熱くしたきりたんぽ鍋を後で持ってきてくれた。
きりたんぽもおいしかったけれど、下のほうにある新ゴボウが出てきたときに、
ああ… これぞ新ゴボウ!という香りが広がり、ゴボウって、独特の、こんなに強い香りだったんだ、
としみじみ思いながら、鍋の底をかっさらって新ゴボウを口に運んだ。
稲庭うどんの汁。
総じて素朴で嫌みなく、お米もおいしく、秋田色。
おいしい晩ご飯だった。果物は部屋に持ち帰り、あとでゆっくりいただいた。
7時から2時間くらい混浴風呂が女性専用に。
昼間は入れなかった露天に入った。
すごくぬるくて、もう1カ所のほうにはおばあちゃんと孫が入っていた。
「熱いのは入れなくてね」って。
2日間を通じてやっとぬるめの風呂に入れて、正直ほっとしたのであった。
やっぱり私、ぬるいお湯が好き。
ただこの露天はあんまり落ち着いて入れるような造りではなく、残念ではあったけれど。
自家発電なので、夜10時には露天の電気は消灯されるとのこと。
懐中電灯で、10時過ぎに入ってみようかと思ったが、曇ってきたようで星が見えず、
なんとなく横になっているうちに眠くなり、入らなかった。
朝食前、もうすでに登山に向かう人々が熊よけ鈴を鳴らしながら出発している。
「からこの湯」に行ってみた。
だれもおらず、かつ昨日と違って湯小屋もこもった感じではなく、お湯の温度も適度な熱めであった。
さらりとして柔らかな、かつ力のあるお湯の感じは「石の湯」と違うような気がして、
ここの源泉は3種類あるのではないだろうか、などと思った。
静かな風呂だった。
流れていくその時間は、貴重だと思った。
人のいない男湯をのぞいてみるとこちらには湯口があり、やはり静謐な空気に満ちていた。
4本目の岩魚クン、おはよう!
「あ! いぶりがっこじゃなくて沢庵…」とつぶやいたら、昨日のおじさんが
「あああ… 朝は沢庵なんだよね」
ざんねーーーん!! ちょっと楽しみにしてたのに。
チェックアウトのときに受け付けにいたのは最初の電話に出たおじいさんらしき人で、
あんまりおしゃべりが得意でないらしく、顔をこっちに向けてくれない。
「お世話になりました」と言っても
下をむいて「ども…」みたいなことをぼそっと呟く。
歩き出しかけて、思い出して引き返し
「この宿の源泉は何本あるんですか?」と聞くと
突然戻ってきたことにたじろいだのか、目をそらして
「3本」
私はちょっと納得・満足して再び歩き出したのであった。
バスを待つ間に、周辺を散歩。
「妙の湯」の前で川を見やると、上流に立派な堰が。
この宿の高い部屋に泊まって窓からあの人工物を見たら、私は逆上するね、きっと。
だからここには泊まらない。
仕事場ではよく蚊に刺されるが、乳頭温泉では一度も刺されなかった。
震災後もここの客足は遠のいておらず、この盛況ぶりは喜ばしいことである。
できたら人の気配のなさそうな時をねらってね……
雪の積もる蟹場温泉の露天独占をたくらんでいる私なんですの。
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