芽登温泉 芽登温泉旅館






(2009年1月11日 @9,500円)







芽登温泉旅館

芽登(めとう)温泉は、帯広駅からバスで上士幌(かみしほろ)まで行き、そこからの交通手段は車しかないが、上士幌まで宿から迎えに来てくれる。
前日宿に電話して上士幌に到着するバスの時間を伝えると
ご主人が
「昨日今日と天候が悪くてね、飛行機が全便欠航ですよ。まだ荒れてるし… 明日は何とかなるといいですねえ…」
「あ、そうなんですか。でも明日は大丈夫だと思います」
(ぜんぜん根拠ないが、大丈夫よ~)


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大丈夫だったよ~


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十勝帯広空港に着いたら宿から電話で
「旭川からのバスが昨日までの雪のため遅れていて、もうひと組のお客さんの上士幌到着が遅れるので、申し訳ないですが1本遅いバスにしてください」

(あ~ そうなると宿に着くのが夕方か… )

ちょっとがっかりであるが、仕方ない。


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空港から帯広駅に着いた時点で宿からまた電話。

「もうひと組のお客さんがかなり遅れるので、もう1本あとのバスで… すみませんね、片道40分かかるので、送迎2往復はできなくて… 」

うーん、そうなると宿に着くのは6時半…  夕食始まって、そして完全に暮れてしまう…

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1泊なのでそれはちょっとあんまりだな~
しかし誰のせいでもない、前日の吹雪のせいだもんね…

その時点で、キャンセルをして十勝のモール泉の宿に変更しようかという考えが、ちょっと頭をよぎった。





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旅に出る前に、思い描くイメージがある。それが旅の始まりだ。

芽登温泉は私にとっては、真っ白な雪の中にぽつんとある1軒宿なのである。
私はそのイメージを大事にしたい。


ご主人は迎えに40分、と言っていた。北海道で車で40分ということは、タクシーで8,000円から1万円の距離である。
私はトイレ付きの9,500円の部屋を予約した。
「例の不粋な長野の宿はトイレなしで17,000円だったんだから、それ考えたらタクシー使ってもいいんじゃないか」
(と、私の中に、こういうマイナスの基準ができちゃってるんだよね~)

私は上士幌行きのバスに乗る前に上士幌のタクシー会社に電話して交渉し、
上士幌から芽登温泉まで1割引きで行ってもらうことにした。


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北海道を電車とバスで移動する人間は、事前に情報を収集していかないととんでもないことになったりする。
私は上士幌にはタクシー会社があることを調べ、その電話を控えていった。
しかし、周辺には店はおろか人っ子一人見当たらない無人駅に降りたってしまうことだってあるのだ。

もっとも東京の高級住宅地、田園調布の駅前にもタクシーはいないけどね。





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「少し手前で止めてください。歩いて宿に行きたいから」と言ったら、
タクシーの運転手さんが
「上士幌から歩いてきたって言ってごらんよ、驚くから」と、いたく喜んでいた。

1割引きで8,000円ほど。まあ1割だからたいした額じゃないんだけど、ちょっと安くなった、という自己満足。


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穏やか。無風。3時過ぎとはいえ
もはや静かな夕暮れの気配。


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この赤い地に白抜きででかでかと旅館名が書かれている屋根は、北海道で多く見かける。

雪のない時季にはケバケバしく感じるが、雪のただなかでは遠くからでもここに宿があり、温かな温泉が待っていることがすぐに分かり、たいへん理に適った色だと納得できるのであった。


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ご主人がびっくりされた。タクシーで来たことを告げると
「それは申し訳ありませんでした。バスで来る人が、バス便が雪のため迂回してそうとう遅れてしまってね」

そう、冬の北海道だもん、そういうこともある。

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玄関のすぐ上のお部屋はとても暖かく、暖房を止めてしまった。洗面台とトイレ付き。



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廊下の端の階段を降りてお風呂場へ。降り口にある洗面台。蛇口から水が細く流されている。

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ドアを開けると、温かな湯気がまず体を包み、ああ… さてさて、これからお湯に…

硫黄のかおりが鼻をくすぐり、なんとも幸せ。

正面のドアは混浴露天へ。女湯の露天は反対側にある。
混浴露天をのぞいたら男の人がいたのであきらめる。

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広いほうの浴槽はぬるめ、小さい浴槽はかなり熱いお湯がふんだんにかけ流されてあふれてどんどん流れる。
ぬるめのお湯はゆったりできるように、湯枕になる棒が設置されている。

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はじめは熱すぎて小さな浴槽には入れないが、体が慣れてくると、この熱いお湯もとても気持ちがよいのだ。

まったり浸かっていたら女の子が入ってきてちらっと私を見やり、そのまま内湯は素通り、露天へのドアを開けて
「ねえ、待った~?」

ふ~ん かけ湯もしないで直行なんだ~
私もそのあとから「待った~?」とか言いながら付いてってみようかしらね。



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女湯の露天。だれもいない。

ひっそりとしている。そしてぬるめのお湯。ほんわか硫黄のかおり。幸せ。幸せ~。

岩ゴロゴロで川は見えず。真ん中にドカンととりわけ大きな岩が。


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お湯もいい塩梅で落ちてるし、私は何よりぬるめ・透明・硫黄泉・アルカリ、というお湯がとても好きなのである。


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               え?    <ゆおんなろてん> ?    <てんろおんなゆ> ??

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この、真ん中に大きな岩、というスタイルも北海道では多い。存在意味不明、けっこうジャマ。

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このぶんだと 「待った~?」「うん、待った~」 の2人がずーっと夜も混浴を独占するのだろうから、

<ゆおんなろてん>を自分仕様にするために、雪が積もって眺めが半減した岩に、私はお湯をかけてせっせと雪を溶かしたのであった。






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         階段の手すりは老朽化したらしく、
         取り払って鉄パイプにしてあった。


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この辺はトイレなしの和室の旧館。もとからある湯治のお部屋と思われる。


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窓を開けて外を眺める。

風がなく、寒くなく、雪の降り積む土地独特の「シーン」という音が聞こえるような風景。好きですね~。






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夕食は1階の食事処で6時から。
あ~ タクシーで来てよかった! 
宿に着いてお風呂にも入れず靴を脱いだらその足で食堂に… って、そうとうがっかりする状況だもんね。

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1人客には気を遣ってテレビの前に配膳してくれていた。本日わりと人がいて席が埋まり、私の隣にも1人の客がいるので、少し離れて2人でテレビ見ながらお食事である。

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あとでご主人とお話ししたら、ご家族で長らく東京に住んでいたそうである。宿を継ぐために戻られたのだろう。
そんなこともあってか、北海道でありがちな味の濃い料理ではなくて、量も控え目、定番のものばかりだが、私にはほんとうにちょうどよく、おいしくいただいた。

なによりお米の味がよく、北海道のお米はおいしくなったなあ、とつくづく思った。

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テレビではニュースが流れていた。ときどき眺めながら食べていた。


国内のニュースが終わり、その日イラクでアメリカ軍が大規模な空爆をし、爆煙があがる映像が流れた。

黒いベールをかぶった女性たちのゆがんだ顔が映り、血だらけの人々の前を、ワンピース姿の幼い女の子を両腕に抱きかかえて走っていく若い男の姿が映った。


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おかっぱの黒い髪の毛、見開かれた虚ろな黒い瞳。

ワンピースから垂れ下がった四肢は、蒼白な顔色の、たぶん父親であろう、彼が走るとその手足は4本の棒のように、無方向にブラブラと揺れる。


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この晩ご飯の最中… 下を向きたくなる思いを必死にこらえた。私にはこの映像を見続ける義務がある。



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ネイティブの人々はともかく、アメリカ合衆国は他国からの侵略、空爆されたり、地続きの国境を越えて戦車で侵略されたことなど、いまに至るまで一度もない国である。

金髪で青い目の父親が、空爆を受け瓦礫の下から助け出した茶色い目と髪のわが子を抱きかかえて
血相変えて走る姿など、この国で見ることはなかったのだ。

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9月11日の、あの人類史上稀にみる映像が全世界に流れたときに、その事実を思い出した人々も多かったのではないだろうか。


もちろんこれは芽登温泉の夕食の内容とは関係はない。
私は自分の旅の記憶を記録しているのだ。


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そのとき私は食事を続けたが、それは北海道の真ん中あたりの静かで硫黄のかおりが漂う鄙びた温泉に入っておなかがすいておいしくいただいているからであり、そしてその若いイラク人の父親でなかったからである。

私は強烈な胸の痛みを覚えた。

そのときの、
少女の淡い色のワンピースから垂れ下がり揺れている四肢と見開かれた瞳を見て私が感じたその胸の痛みを、
これを読んでくださっているあなたが、いままさに感じとってくれたなら、



この瞬間、顔の見えない私と、顔の見えないあなたとの間の電子の空間に生まれたもの、

それはインターネットというメディアによって引き起こされた、かつてない新たな生成物ではないだろうか。



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                  それはごくごく小さな砂粒のようなものであるかもしれないが、
                   世界を変える可能性のある、小さな砂粒だと、私は思う。



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        いつか何かのきっかけで
  それらの小さな砂が集まっていき、
           少し大きな山になり、
    やがてもう少し大きな山になり、
        変化は変化を呼び寄せ、
            それはかならずや
   大きなうねりとなっていくはずの、

     最初の1粒であったらと思う。




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もちろん、これは温泉の話とは関係がない。


しかし、はたしてそうだろうか。

私は時々、だれも入っていない森閑とした深夜の風呂場でお湯の中に足を伸ばし、
次の瞬間、突然目の前の大地が裂けるかもしれない、と思うときがある。
地球は変化する。世界も変化する。久遠の安泰などありえない。

天変地異かもしれない……

ミサイルかもしれない……





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だから……

つつがなく清々しい朝を迎えられることは、なんとありがたいことであろうか。

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昨日岩の上の雪を溶かしておいたので、スッキリとした眺めの<ゆおんなろてん>。


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とても気持ちよく入ったが…

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やっぱり混浴露天に入りたい!

誰もいないわね?  というわけで恐る恐る様子を見ながら混浴露天に。


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だってね… こういう注意書きがあるし。内湯方向。

北海道の風呂場の張り紙を読んで、そうとうびっくりすることがこれ以降もたびたびあった。
いいお湯とお風呂がたくさんあるのに…モラルは低下してるみたい。まあ本州でもそうだけど。



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しかし、朝だからさっ! 卑しい心も朝日に洗われるんじゃない?

気持ちいいし、だんだん気が大きくなって「何でも来い!」みたいな気分。

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雲が去っていき青空がのぞいた瞬間、

すべてのものが輝き、
いっせいに喜びにわくような感じがする。



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ひんやりした空気の中で、なんだかお湯も嬉しそうに湯気をあげる。

それがまた、たまらなくいいんだよね~~~  冬の朝の風呂。


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                           これがヤチボウズ?かな?




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散歩に連れて行ってもらって1日が始まった犬たち。
もう年寄りなんだけど、やたら元気だそうです。

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「ご飯まだかな~」 ですかね?





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私の朝ご飯。昨日と同じ食事処で。

この宿の朝食は「粗食だ」と書き込みされたりしている。

しかし、海苔と卵、鮭、タクアン、朝食はこれで十分。私には。
朝から刺身を食べたい人は、そういう宿にいくべき。
お米がおいしい。



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洗面台の脇に、きれいなタイルの台があった。

ご主人に尋ねたら、かつてストーブの下に置いた台だそうで、
とてもにきれいなタイルと細工だったので感心して見ていたら
「まだあるからあげましょうか?」

(えーーっ!! 欲しいけど重いから送料が高いし、部屋も狭いから置くとこないし…)
残念だけど。辞退。

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              ああ……   様々なことを考え、そしていいお湯と、いい時間だった。

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               ほら、雪景色の中、赤い屋根がね、とってもいとおしく見えるわ~!!



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                           宿から上士幌まで送ってもらい、

               さあ、そこからまたタクシーに乗って、糠平(ぬかびら)温泉の次の宿に。










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