(2010年6月27日 1人泊 @5,000円+夕食代1,500円+朝食代1,000円)
北海道、小樽から日本海側の海沿い、積丹半島からそれ以南の土地は、
車以外の交通の便がとても悪い。
唯一札幌から出ているバスが小樽、余市を通って岩内のバスターミナルに。
その後岩内のバスターミナルからまたバスで各地に向かうことになる。
私は朝7時前に家を出て、まず羽田から新千歳空港。
そして地下のエアポートライナーの指定席を緑の窓口で
「海側、右のサイドお願いします」
と言って買い…
座席に収まったところで、
さっきキオスクで買った、
値段は120円だが東京の1.5倍の重さがあるずっしりとした鮭入りのお握りを1個食べ…
昨夜の天気予報の
「曇りのち雨」という言葉を信じて、
UVカットに手を抜き、帽子も持って来なかった自分に腹を立てながらも…
次々と変化していく窓の外の風景に気持ちが弾んでいた。
北海道で鉄道に乗るのはとても楽しい。
ずっと続いていた林や広い畑がふいに途切れると、あっという間に目の前に海が広がるのだ。
海岸線ギリギリを走ることが多いから、
潮騒が聞こえるような近さの波打ち際を眺めることができる。
小樽までの海辺はおおむねゴロゴロとした石のある岩場が多いけれど、
ところどころ小さな砂浜があって…
その小さな砂浜に見合った人数、
つまり10人しかいられないところには10人、
20人くらいいられるところには20人くらいの人が…
近くに車を止めて傘を広げ、ビニールシートに座り、
…そして中には必ず泳いでいるのがいるのよ…
6月末、関東の湘南なんかで泳いでる人って、
見たことないわよ~!
いくら暑いからってさ~ 水、そうとう冷たいんではないの?
短い夏を謳歌したいんでしょうね。
北海道の人は。
本日えらく暑く、気持ちは分かる!
小樽駅は風があり、いくぶん涼しかったが、新千歳は東京並みに暑かった。
1時に出発のバスには幾分時間があり、駅前のスーパーに入って地下の食料品、とくに野菜・果物売り場を眺める。
地方のスーパーに入るの好きなのよね。
お土産じゃなくて、そこの土地の生活に密着した全然知らないものや珍しいものがあったりするから。
小樽のナガサキヤには、とくに注目するようなものはなかった。
道産の瓜のようなメロンを売っていて、見たことなかったのでちょっと惹かれたが
大きいので諦める。
道産のサクランボとかあったら買いたかったのだが、山形のしかなかったのね。
さて本日日曜なので、遊びに行くおばさんのグループとか、携帯握りしめたギャルとかで割と席が埋まったバスが動き出す。
およそ1時間半のバス旅行。
切り立った岩場が連なり、急激に海となる海岸線を走る。これも楽しい。
途中から海岸線を離れて、余市、そして果物の里、仁木へ。
あ~~~
サクランボ1パック300円とか書いてある!
バスの窓、すぐそばを、赤く輝く実がびっしり付いた木々が目の前を通り過ぎて行くの~~~
降りたい~~~! あれを食べてみたい~~~!
ビニールシートに覆われて大事に育てられた果樹園が続いているのだった。
あ… これを見るだけで… 食べられず…
悶々としているうちに果樹園は去っていき、そうこうするうち岩内バスターミナルに到着。
ここからまたバスを乗り継いで、雷電温泉へと向かうのである。
なんとなく、岩内というところはもっと内陸だと思っていたのだが、予想外に海に近く、
再び山がせり出したような海岸線を通っていくのである。
おばあちゃんたちが3人ほど乗ったバスは、トンネルと海岸沿いとを交互に走る。
宿から車で迎えに来てくれるのだが、バス停名に<雷電温泉入り口>と<雷電温泉郷>とがあり、
宿に電話したら「2時47分に着く停留所です」とのことで、バスの運転手さんに
「2時47分に着くのはどちら?」と聞いたら
「どこに行くの?」というので
「朝日温泉です」
「朝日温泉なら<雷電温泉入り口>だよ」
<雷電温泉入り口>までは490円、
<雷電温泉郷>までだと530円。
とにかく490円のチケットを買ってバスに乗る。
<雷電温泉入り口>で降りようとしたら、迎えの車が来ていない。
おかしい…
「ここ47分着のバス停? 迎えの車が来てるはずなんだけど… 次じゃない?」
バスの運ちゃんは確信を持って
「朝日温泉は、ここ!」
ほんとか?
なんか半強制的に降ろされるハメとなる。
確かに看板はあるが、ここから3kmと書いてある。
そして迎えの車は見当たらない。
やっぱりここじゃないんじゃないの?
仕方ない、また宿に電話する。
宿の管理人さんの奥さんが「もうしばらく前に迎えに行きましたが…」
えー …
そしたらすごいスピードで来た車が目の前でUターンして
「お待たせしましたねー! バスの運転手が手前の停留所で降ろしちゃうんだよねー!」
よかった~! 1つ先の<雷電温泉郷>に行く道のほうが途中から舗装されているので、
宿の送迎はそちらを使いたいのに、バスの運転手が手前で降ろすことが多々あるらしい。
みなさん!バスで行かれる場合、降りる停留所は運ちゃんが何と言おうと断固無視して<雷電温泉郷>、
岩内から530円のほうですからね~!
曲がりくねった細いダートの道を15分ほど、 そして、着いたわ~着いたわ~やっと着いたわ~
おとなしいビーグルちゃんが出迎えてくれた。
新しい管理人さんになり、5月に再開した宿は網戸が張られて夏仕様。
本日のお部屋は、明るい日差しの2階、いちばん手前の窓が2面ある部屋だったが、
管理人さんの奥さんに「自家発電の音が気になるかもしれません。奥の部屋のほうが音がしませんが、ここでいいですか?」と聞かれ…
うーん… 奥の部屋のほうがいいかも… というわけで奥の部屋に移動。
日帰り入浴客がけっこう車で来ている。車が来る音や、去っていく音がする。
こちらは窓が1カ所、でもいずれも網戸が張られ、それにここからの景色を楽しむ、という宿じゃないので、ここでいいのだ。
部屋はお布団が片隅に置いてあり、とてもシンプル。 あれ?お茶セットなし?
ああ、そうか。目の前の川は豊富に水が流れているが、多分飲料水が貴重なところなのだ。
はやる気持ちを抑え、持っていたペットボトルのお茶を飲み、身支度して(一応混浴用湯浴み着装着ののち、浴衣をはおるスタイル)
いざ~ 出発! 混浴の露天は、男湯からは直接ドアを開けて行けるんですと。
女湯からは行けないので、建物のサイドをめぐって宿の裏手に。
まず細い手作り感に溢れた橋を渡る。
ちょっと先の塀を左に曲がる。
そしてもう1本の橋を渡り、あっ!あそこに見えてる! だれもいない!
ここだわ、ここだわ! 硫黄の香りがする!
あーーー! 着いたよ~ やっと入れる~
感無量。
家を出てから8時間半かかったの。
長かったよ~ でもとっても楽しい旅の、なんて素敵なお風呂…
ぬるめ、ふっと硫黄の香りが鼻をかすめ、お湯は岩壁から自噴している。泡がプクプクッと上がってくる。
あ~
あ~
ダブルブイサイン!
来られてよかった~~~ しみじみ幸せ。
もう1人の宿泊客は男性で素泊まり、食事は私1人で。
「あまり食べないので少しでいいです」と言っておいたんですが、いろいろおかずを揃えてくれています。
お刺身もたっぷり。おなかもすいていておいしくいただきました。
日が長くなったので、7時はまだ明るい。
内湯へ。
スッキリした脱衣所。
浴槽が2カ所あって、源泉が違う。
肌触りのいい、黒い湯の花が舞う熱めの浴槽と、
白い湯の花が舞う、ぬるめのお湯の浴槽とがある。
硫黄の香り漂う露天も含めて、いずれも肌に負担のない気持ちいいお湯である。
とっても嬉しいことに、ふかふかの敷布団2枚、羽毛の掛け布団でした。
朝はコーヒーを淹れてくれました。
男湯の内湯。
素泊まりの男性客が早々と出発したので、湯浴み着なしで露天に向かう。
激しい川音と、朝日に染まる木々の緑、時々なく鳥の声…
自然のただ中で、その光と空気とに渾然一体となって、呼吸する。
今日のお湯は透明感があり、底までよく見える。
そしてお湯とも同化して、この小さなお風呂に入った私は、そのまま風景の一部となる。
朝ご飯。
おいしいタラコだけでご飯がすすみます。
男湯の内湯も入らせてもらいました。
今日は内湯のお湯も、透明度が高い。
あのドアを開けて行くと、露天が近い。
今回は、本日が宿のお休みの日で、2泊できなかった。
でもとてもとても満足感のあるお湯とお風呂だった。
この若いビーグルちゃんは<大将>っていう名前なんですって。
名前に似合わず、とってもおとなしくて控えめ。
「また来る?」
「うん、今度は2泊しにまた来る」
本数の少ないバスに乗るために、9時20分に管理人さんに送ってもらう。
宿のオーナーは別の人で、この宿は管理人さんが数年ごとに入れ替わって維持されてきたらしい。
今年から管理人になったご夫婦は、客としてこの宿に泊まり、以前の管理人さんとお酒を飲みながらお話しているうちに、以前の山男の管理人さんがそろそろ山に登りたいから代わりの人間を探しているのだが、という話になって、引き受けることにしたんですって。
「人生、どうなるかわかりませんね。こんなことやるとは思ってもみなかった」と、
新米の管理人さん。
宿は冬は急峻な山道の除雪がされないので休業、春先にやって来たときには、雪の重みで建物がいたんだり潰れたりしているらしい。何年か前には別棟が崩壊したという。
オーナーは「冬の間に建物が潰れたら、もう修理しないで廃業」と言っているらしいが、
歴史のあるいい温泉を持つ宿なのだから、 長く続けてほしいと願う。
辺鄙な山の一軒宿を細々と、しかしここまで続けてこられたのは、オーナーだけでなく代々の管理人さんの苦労と努力のたまもので、
そこには名を売ろうとか儲けようとかという発想とは無縁の宿と自然に対するひたすらの愛情が流れていて、それゆえにこの宿が輝くのである。
雷電海岸は穏やかに晴れわたり、湿気のない海風が気持ちよかった。
いい宿だった。いいお湯だった。いい管理人ご夫婦だった。
去っていく車に手を振りながら、充実感と幸福感が込み上げてきた。
そして嬉しいことに、私はこれからまだ旅をして次の温泉に行くのである。
★★★★★★★★★★★★
私がこの宿に泊まって1カ月余、北海道はかつてないような豪雨に見舞われました。
宿は川の氾濫のために半倒壊、岩と汚泥で埋まり、現在休業を余儀なくされています。
http://ameblo.jp/asahionsen/entry-10605536453.html
管理人ご夫婦がご無事だったのが不幸中の幸いでした。
いつかまたお二人と<大将>とに会える日が来ますよう。
一日も早い復興をお祈りしています。
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