2012年8月16~18日 

広河原温泉 峰旅館 ささやかな避暑








広河原温泉 峰旅館

仕事先に行く道の、
春にはゆっくり見上げて通った桜並木も、この時季は割れんばかりの蝉時雨。

この暑いのにクソやかまっしいわいっ!と罵りながらワッセワッセと通る坂。

まあ都心では僅かにある木に何匹も集中してかじりついて鳴くしかないのだ、蝉も。7年越しで地面から這い出したんだから。
とはいえ! うるさいっっっ!



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暑いわ~  ひたすら暑いわ~  耳からも目からも皮膚からも暑いわ~



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やっとミニ避暑よ。毎日汗でグダグダ。たまには熟睡したいものだ。シクシク。








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ああ… ああ… 車から降りた瞬間……
これこそ忘れかけていた記憶にある夏の風のそよぎだ。



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梅雨があけると急に日差しが強くなり、
「お暑いですね」「今日は蒸しますね」と挨拶する。

カキ氷が無性に食べたくなって、食べ終わるとこめかみがキーンとして
ほんの少し体が冷える。

夕方、入道雲がわき起こり、雷を伴って激しく降った夕立のあとには
爽やかな空気に満たされることもあったけれど。




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そして旧のお盆を過ぎるころ、夜は虫の音が聞こえだし、かすかな秋の気配が感じられる。

人間の動きとは関係なく確実に季節が巡ることを、全身で感じられたものだったが。







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夏はアブだらけだ。
それも 丸々とした特大のアブがすごいスピードで飛んでくる。




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昼間の露天に入る時はハエたたき必携。

来た!留まった!バシッ!また来た!留まった!バシッ!

隣の部屋の露天からもバシッ!バシッ!という音が聞こえる。




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お湯の温度がやや高めになっているのを感じる。
殺生ばかりするのもなんだし、落ち着かないし、そんな時は内湯のほうがいい。






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お女将さん、おばあちゃんが夕食どきに挨拶にみえた。
相変わらずお元気で、喜ばしい。

たいへん小柄で華奢な体つきや、ご自分の宿と温泉をこよなく愛しておられるところや強い責任感、そして耳がご不自由なところなど、幌加の<鹿の谷>の女将さんと共通するところがたくさんある。

<峰>の大女将さんはいつも和服姿、<鹿の谷>の女将さんはロングスカートの洋装、という違いはあれど、お二人ともまるで小鳥のようにエレガント。そしてお元気。

<峰>の大女将さんは<鹿の谷>の女将さんより10歳以上お年を召しているので、山菜採りに行って転んだ話など伺うと、お怪我しませんように!とワナワナしてしまう。







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私は目が見えなくなる恐怖より、耳が聞こえなくなることのほうに恐怖感を覚える。
気配をほとんど感じられないということは、何か世の中と断絶するように思え、
想像するだけで恐ろしさが忍び寄ってくる。


<峰>の大女将さんも<鹿の谷>の女将さんも共に、時に饒舌といってもいいようなくらいお話しされることがある。

こちらが耳元で伝えたり筆談も交えてお話する時に、彼女たちの言葉がとめどなく溢れる。
一人で過ごす無音の長い時間の空白を埋めるかのように。

目の前の人間の表情や仕草を感じられる間に、音や声はかすかかもしれないが、そこで明らかに成り立つコミュニケーションの時間をできるだけ長く、
できるだけ多く思いのたけを伝えようとされているのかもしれない。

お二人とも大正 、昭和、平成と、恐らくはつらい困難な時期も体験されて乗り切ってこられ、
だからこそ無音の気配を感じられない世界をも、強靭な精神で受け入れていらっしゃるのであろう。










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夜に。



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星がかすかに見える静かな夜である。

宿の表に出る。



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深呼吸すると、これから夜露に濡れていく草の香りがする。





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アブも飛んでこなくなった露天に入ると、昼間よりずっと温度の下がったお湯が心地よい。



目の前に見える私の足は、<モノ>だ。

ボードリヤール。
「写真、それは現代の悪魔払いだ。原始社会には仮面があり、ブルジョワ社会には鏡があった。そしてわたしたちにはイメージがある。」





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「おそらく写真を撮りたいという欲望は、次の事実を確認することから生まれてくるのだろう----意味の側から全体を俯瞰して見た世界は、まったく失望を誘うものであるが、不意に細部を見たならば、世界はいつでも完璧に自明な存在である、ということを。」

<ジャン・ボードリヤール 『消滅の技法(アート)』 梅宮典子訳>





夜の闇と赤谷川の流れと湯船から溢れ去るお湯の音とが混然となって、やがて豪雨と共に激しい稲妻が遠くの山の稜線をありありと照らし出し、すべての音が怒涛のように空間に満ち満ちていくと、真空の宇宙空間のようにそこに出来したカオスの、微小なフラクタルの先端を私は漂う。

横になると、絹の糸のように細く艶やかにさざ波のように鼓膜に届く虫の音。

夜気で冷えてきたのを感じ夏掛けを首まで引き上げると、その動作を最後にした日々を思い出し
(それはいつだっただろうか…… ?)

思わず深いため息をついて眠りに落ちていく。












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宿のサンダルばき、日傘片手にペッタンペッタンと赤谷川沿いを下って、先日行った発電所の前を通って散歩。

日に照らされていても何のその、
その先に汗が引く木陰が続くと思えばおのずと足取りも軽やかとなる。

小さなダムを越えると途中から舗装が途切れて土の林道となる。






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ハッ !!  瞬間、見逃すような道と同じ色の、保護色の、あの長いものは、何?!

もちろん蛇だわね……

気がついて良かったよ~
猫踏んじゃった~  レベルで、蛇踏んじゃった~  と浮かれていられないわよ。

ヤツがそこにいる以上は私はどう対処すればいいか決めなければならない。
つまりしっかり見なけりゃならないが、
しみじみと見たくはないものですしね……

なかなか正視できないんですね。
斜めにチラチラ見ると、今まで北海道などでよく見るながーい蛇じゃないのね。
ずん胴でそんなに長くない。
そして車にでも轢かれたらしく白い内臓のようなものが出ていて、そこに黒い虫らしきものが付いているので、どうやら昇天しているらしい。

らしいとは思えどできるだけ離れて道の端を通って進んで行ったら、最近土砂崩れが発生したようで、通行止めとなっていた。
それらの標識や道を遮断するパイプなどはまだ新しく、そこに道がある以上道路管理がなされているということで、こんなに人が殆ど通らない林道でかつ本道へ抜けるだけの道であるのに、管理が大変だなあ、と思う。




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あとで若女将に聞いてみたら
「蛇はいろいろいますね、毒のあるヤマカガシやマムシも。太くて短い蛇はマムシです」

えっ ……  さっきの蛇はメタボチックで短めで茶色の保護色だったような。

夏は車でやって来る人があちこち乗り回し、地元の人が行かないような道にも入り込んで行くので、轢かれたらしい。

帰ってから調べたら、茶色の模様といい太さといい、なんかそれっぽいのであった。
しかし蛇の柄というか模様は、個体によってこんなに違うのかと驚くほど様々で、
こりゃ、専門家じゃないと分からんわ~

マムシは臆病で昼間はあまり行動しないようであるが、ヤマカガシは気が短いらしくすぐ人間に向かってくるらしい。




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ひえー つまりは
サンダルばきぺったんぺったん、危険!!


北海道では多少緊張して散歩するけど、本州では気を抜いてたところあり。

考えてみたらここは熊も猿も時としてニホンカモシカも、当然蛇もたくさん出る山の中なのだ。
腕時計で高度を見たら600m超えている。

キレイな水のそばにはアブはしこたまいるし、そういうところに人間が入り込んでいくのであるから、それなりの自覚が必要なのである。

と自分を戒めたの。




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「たくさん持っていってください」





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お土産にもらったトマトや月夜野産のプルーンは、
夏の日差しの……

カラリと晴れた晩夏の日差しと土いきれの、においがした。


















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